こんにちは、精神科ナースまさです。
今回はめずらしく(?)
精神科の看護師らしい「アルコール依存症のお薬」についてお話していきたいと思います。
いわゆる「抗酒剤」と呼ばれる昔ながらのものから、最近のお薬まで紹介していきます!
あらかじめの注意点としては、これから紹介するお薬はそもそも一般の医師は処方しません(おそらく存在すら知らない人も多いかも・・・)。
専門の精神科医が「アルコール依存症」と診断し、医師と本人の同意のもと処方されるものになりますので
もし患者さんとしてこの記事を見て下さっているのであれば、この記事を参考にしたうえで主治医に相談してみてください。
同じく医療者として見てくださっている方は、患者さんのアドヒアランスが大切になりますので、意思決定をサポートするうえで、この記事が参考になれば幸いです。
この記事はこんな人にオススメ!
・抗酒剤ってどんな薬なの?
・抗酒剤を提案するうえでの注意点は?
・実際の臨床ではどんな流れで使われ始めるの?
抗酒剤について
抗酒剤の歴史等は省きますが、昔からあるお薬になります。
日本で使われているものは2種類です。
・粉末のジスルフィラム(商品名:ノックビン)
・液体のシアノミド(商品名:シアノマイド)
この2つの共通点は、簡単に言うと「悪酔いしやすくなる」という点です。
もう少し具体的に話すと、この2つの薬の効果時間中にお酒を飲むと「気持ち悪くなる」「吐く」「息苦しくなる」などの症状がでやすくなります。
このような症状が出る理由は、これらのお薬によって身体がアルコールを解毒する能力を弱めるからです。
そして、まぁまぁしんどい思いをするので、結果的に「もうお酒はいいや・・・」って心理的にお酒を避けようとするようになります。
(もちろん、それでも飲む方はいらっしゃいます。それが依存症ですから・・・)
副作用としては、お酒を飲んでなくても悪酔いみたいな症状がでたり、発疹ができたりすることがあります。
また、肝臓への負担があるので、肝機能があまりに悪いとそもそも服用できないこともあります。
ここまで2つの共通点を挙げたので、次はそれぞれの違いについてお話していきます。
粉末のジスルフィラム(商品名:ノックビン)
ノックビンは効果が出てくる時間が遅め(12時間ぐらい必要)で、効果時間の前にお酒を飲んでも薬の効果は得られません。
1週間内服を続けると、さらに1週間効果が持続すると言われています。
つまり、お酒を飲まない前提で服用し続けてようやく効果が発揮されます。
液体のシアノミド(商品名:シアノマイド)
シアノマイドは服用後、すぐに効果が出てくると言われています。(さすがに服用直後にお酒を飲むと効果がでないらしいですが・・・)
その代わり、効果の持続時間は約1日だけと言われています。
よく使われる飲み方として、朝一番に家族の前などで内服して家族と自分自身に「今日1日飲まないんだっ!!」という意思表明として使われることもあります。
飲酒欲求(お酒を飲みたい気持ち)を抑える薬
アカンプロサート(商品名:レグテクト)
抗酒剤ではありませんが、お酒を飲みたい気持ちを抑える薬になります。
このお薬は体にアルコールがない状況で効果を発揮するので、断酒をしている人が適応になります。
明確な作用時間は書かれていませんが、血中薬物濃度が最高値になるのが5時間前後で、半減期が15~20時間と言われているので
5時間ぐらいで効き始めて、15~20時間程度で効果が切れるぐらいになります。
副作用についてはほとんどなく、あったとしても内服初期に軽度の下痢や軟便がある程度と言われています。
また、身体にアルコールが入ってしまうとレグテクトの効果が十分に得られませんので、あくまで「飲んでいない人の飲みたい気持ちを抑えること」が目的になります。
ナメルフェン(商品名:セリンクロ)
こちらも抗酒剤ではなく、お酒を飲みたい気持ちを抑えるお薬になります。
レグテクトとの違いは「お酒を飲む前提で内服するお薬」ということです。
具体的には、お酒を飲む1,2時間前に内服すると、お酒を飲む量を抑えられる、といった作用になります。
お酒を飲んでいるときに気分が高くならなかったり、逆にちょっと気持ち悪くなったりするような効果があ、結果的に飲酒量を抑えられたりします。
副作用としては、吐き気や眩暈などが報告されていますが、頻度は高くないです。
実際の精神科の現場ではどんな流れでお薬を使い始めるの?
ここまではお薬についてお話させていただいたので、今度は看護師らしく病棟で薬剤を使用していく流れについて簡単に説明しますね!
まず、ほとんどの場合がお酒を飲んで入院になっているので、まずは体からお酒を抜くことから始まります。
そして、身体からお酒が抜けると、アルコールの急性離脱症状なるものが出現する可能性があります。
(詳しい症状や看護については調べていただくか、問い合わせいただければおお答えします!)
この急性離脱症状が厄介で、幻覚が出現して暴れ出したり、けいれん発作を起こして急に倒れるなど、場合によっては命に関わる事態になることもあります。
一般的に最後にお酒を飲んでから72時間以内に発症することが多いです。
そのため、この72時間は注意して観察していき、離脱症状がでないように筋肉注射や内服調整を行っていきます。
また、お酒浸りになると食事も水分もほとんど取れていない状況であることは珍しくありません。
そのため、1週間ぐらいはビタミン入りの点滴をしたり、水分摂取を促したりといったことが必要になります。
ビタミンが必要な理由は、お酒を飲むことで一番不足するのがビタミンであることが分かっており、この状態が長く続くとウェルニッケ脳症を引き起こす恐れがあるからです。
急性期を脱して、落ち着いてきたら、早い段階で今回の入院について振り返ります。
特に離脱症状で大変な思いをした患者さんは、お酒の恐ろしさを身をもって痛感しているので、早めに振り返りができると効果的です。
そして、私の病院ではアルコール依存症の勉強を集団で行って、お酒が及ぼす身体や心、社会への良い影響と悪い影響について勉強します。
(そのほかにも自助グループについて勉強したり、お薬や栄養についても勉強します。)
私の病院で使っている本を載せておきますので、よかったら参考にしてください!
(SMARPPは全く同じ書籍がアマゾン上に見当たらなかったので、別の書籍を表示しています。基本的に同じ内容になっています。)
この段階では、身体からお酒が抜けているので多くの患者さんは医師の提案のもとレグテクトから始めることが多いです。
退院が近くなってくると、抗酒剤を検討することもあります。
「アルコール依存症は意志の強さだっ!」って言っている人ほど、再飲酒をして再入院になる人が多いです・・・。
入院生活中はそもそも飲めないので良いかもしれませんが、日常生活にでるとコンビニで24時間お酒が買える世の中です。
依存症の方に限らず、人間は非常に意志が弱い生き物です。
ですので、お薬や通院、自助グループの仲間などを作って、自分の意志に頼る場面をできる限り減らすことが大切!
その1つとして、抗酒剤は強い味方になります。
そのため、退院が近くなって生活のイメージを固めていく段階で抗酒剤を検討するのがいいでしょう。
もちろん、それよりも早いタイミングでも良いのですが患者さんによっては入院中は退院後のイメージができず抗酒剤の必要性を感じない方もいます。
患者さんに合わせたタイミングで情報提供し、患者さん自身に考えてもらえるように支援していく必要があります!
まとめ
抗酒剤を含め依存症は特にアドヒアランス(患者さん自身の治療の賛同と積極性)が大切になります。
一般科にはない、どちらかというとカウンセラーやコーチングのような特殊な関わりが必要になる場面も多いです。
だからこそ、そこにやりがいを見つけられることもあります。
無料で相談もしてますので、お気軽にお声掛けください!
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その他の参考
eヘルスネット:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/
アルコール依存症がよくわかる本
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